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渡嘉敷村の御嶽とグスク


 渡嘉敷村にあるグスクは2つと沖縄の離島の中では標準的な数ですが、御嶽の数だけは「琉球国由来記」記載の御嶽(殿も含む)だけでも26、「琉球国由来記」や「琉球国旧記」に記載はないが、現在御嶽と呼ばれている拝所が8と驚くほど多くの御嶽があります。渡嘉敷村より遙かに人口が多く、渡嘉敷島より面積が何倍も大きい久米島の御嶽は31(「琉球国由来記」記載。奥武島1を含む)ですから、それと比べても遜色ありません。他には座間味村は14で、渡名喜島が6です。
 「琉球国由来記」記載の御嶽のうち現在沖縄に残っている御嶽は4分の3程と言われている中で、渡嘉敷村の場合は全御嶽の存在を確認できているという点でも驚きであります。もっとも、黒島にある黒島御嶽や儀志布島にある宜次保御嶽など周辺島の御嶽については香炉等の存在が確認できないようですが、これは島全体を御嶽と捉えることも可能であり、いずれにしても全くの場所不明という御嶽はないようです。
 何故、これだけ御嶽が多いのかは管理人には分かりかねるところもありますが、信心深いからでは納得のいく答えとはならないでしょう。以前に糸満市の非常勤調査員の方から、「琉球国由来記」の御嶽がある場所には王府から金銭等を支給されたらしい。だから、支給をもらうためにひょっとしたら当時いろいろと無理矢理御嶽に仕立て上げたのがあるかもよ何て話を聞いたことがあります。仮にそれが真実なら、渡嘉敷には御嶽をこれだけ作っても許される素地があったのではないか、つまり、渡嘉敷の人は王府と繋がりが強い人達が多くいたのではという話もありそうです。それを傍証できるエピソードかは分かりませんが、渡嘉敷の住民は琉球王府時代は王府御用船の船頭・水夫となっていた者が多かったそうです。また、直接琉球王府と関係する話ではありませんが、船蔵御嶽にまつわる話で、豊見城間切座安村から神女を呼んだという話が「渡嘉敷村史」に載っていますし、豊見城グスクには確か渡嘉敷島への遙拝所がありました。語源が不明なのでたまたま一緒という可能性もありますが、豊見城市には渡嘉敷という字がありますので、何故か豊見城と縁が強いようには思われます。
 以下、「琉球国由来記」と「渡嘉敷村史」を元に渡嘉敷村の御嶽を紹介します。詳しく知りたい方は「渡嘉敷村史」を見て下さい。琉球大学・沖縄国際大学・渡嘉敷教育委員会等にあります。


琉球国由来記記載御嶽

御嶽名 神名・トノ名 所在地  性格  場所&行き方  備考
西御嶽 ヨラブサ 渡嘉敷村 先祖の居住地。渡嘉敷島で重要な御嶽。 国立沖縄青少年の家敷地から。 「琉球国由来記」記載に従ったが、本サイトでは基本的に北御嶽と表記。
黒島御嶽 オリキヤサ 渡嘉敷村(黒島) 航海安全の対象。   香炉等の存在は確認されていない。渡嘉敷の先祖の居住地という伝承もある。
宜次保御嶽 カヤウサヨキゲライ 渡嘉敷村(儀志布島) 航海安全の対象。   香炉等の存在は確認されていない。地元では御嶽と考えられていない。按司一族の遺骨が葬られていると伝えられる。 
ミサキ御嶽  ヨキゲライ  渡嘉敷村 航海安全の対象。 渡嘉敷島北西の崖がある岬。 屋号西元家の娘が神となった場所。人が居住したと思われる岩陰があり、以前は香炉があった。 仲松弥秀作成表のミサキ御嶽は長崎と呼ばれる渡嘉敷集落南端の岬にあると表記されている。
安禰宜城御嶽 国カサ 渡嘉敷村(城島) 先祖の居住地。火の神を祀る場所。   御嶽でもありグスクでもある。 
志良志御嶽 シケカケ 渡嘉敷村 先祖の居住地。 渡嘉敷小中学校の西にある白瀬山を登るとある。  山頂には石囲いの中に香炉が4つある。西御嶽・城島・里に次いで先祖が居住した場所。 
サメガ御嶽  国ラヒ 渡嘉敷村 先祖の居住地。 渡嘉敷港南にあるサミカ山中腹の平坦地。  香炉が4つある。ミツ御嶽と神名が同じ。種取り祭りの神と関連。
仲御嶽 ワライキヨ・ヨキゲライ 渡嘉敷村 先祖の居住地か。 サメガ御嶽の南西にある中嶽の中腹。 香炉はないが石囲いがある。明確な伝承はないが、嶽登りをする一門の先祖の居住地。 
ミツ御嶽 国ラヒ  渡嘉敷村 西御嶽に付属する御嶽か。 西御嶽の途中。  2つの香炉がある。西御嶽へ行く前にここでも遙拝する。「渡嘉敷村史」では北道御嶽と表記。なお、ミサキ御嶽がミツ御嶽の可能性もあり。
前御嶽  ウシカケ・ヨキゲライ 渡嘉敷村 門中の拝所。  里山南西にある前山の頂上。  戦前は建物があった。 
船蔵御嶽  ハチライ・コセライ・ヨキナワ 渡嘉敷村 豊漁祈願の対象。  渡嘉敷小中学校の裏。  神名が3つあるが、ハチライ・コセライはそれぞれ豊見城間切座安・渡嘉敷から連れてきた神女。ヨキナワは屋号西家の娘で神女になるべき人であったが、死んでしまいここに葬られた。 
真川御嶽  目眉清良 渡嘉敷村 五穀豊穣、特に稲の豊作を祈る場所。 クミチヂ山北東にある波佐間山の裾。 石の香炉1つ、小さな香炉4つがある。マカーガーラという祭りのときに祝女が沐浴する池があった。神名の読みは「めまよきよら」。 祝女を神格化したものと思われる。
上マタ御嶽  君キヨラ  渡嘉敷村 水と稲の守り神を祈る場所。 クミチヂ山北400mにある波佐間山裾野の恩納川原側。 古い香炉と新しい香炉が1つずつある。祝女によると神名はイズンツラ・チミツラだとのこと。 近くには鶴が3本の稲穂をもたらしたという三穂田の伝説の場所と言われるミフーダがあった。
渡嘉敷大ミヤノ神  カナヒヤボノトノ 渡嘉敷村 先祖を祀った場所。 クミチヂ山東端。  四角い香炉1つ、丸く白い香炉2つ、青い香炉1つがある。先祖がクミチヂ山で話し合いをする際はここに船を泊めたという。カナヒヤグの殿とも呼ばれる。
慶良間ミヤノトノ 未詳 渡嘉敷村 火の神が祀られた場所。 クミチヂ山南東の裾。 屋敷と中には香炉が4つがある。近くにはカミガーという井戸がある。首里殿内ナーとも呼ばれる。
小嶺ノ神トノ 首里大屋子主取 小嶺村 ヤフィンチャー・ミルク等の様々な神を祀った場所か。 クミチヂ山北端のやや東寄り。 屋敷と井戸がある。神名は拝所の祭祀管理者と思われる。拝所の由来は諸説ある。旧小嶺村唯一の聖地。
ウシアゲ森御嶽 ウシカケ 阿波連村 不明。 阿波連公民館。  詳細は不明。 
西川上御嶽 川中ツカサ 阿波連村 先祖の居住地。  集落北にある殿山の西側斜面。 香炉が3つある。御嶽手前にある香炉は西御嶽へのお通し場所。種取り祭りで祝女が祈願する場所。神名は稲田の水を支配する神のこと。
東川上御嶽 テリアガリ 阿波連村 先祖の居住地。 集落北東の奥、ウフガーラの北東側。 香炉が2つある。「渡嘉敷間切由来記」によるとここにテリアガリ・オシカサの神が現れて願いを叶えたという。 最初の住人は今帰仁からの落人だという。
船蔵御嶽 キタカモリイベ 阿波連村 豊漁と航海の安全祈願の場所。 阿波連小学校近くの保安林の中。 威部として石が1つある。海神際のときの祈願場所。
上ノ神 アツメナノトノ 阿波連村 先祖の居住地。 集落北側にある標高62mの殿山。 世主国主加那志・火の神などが祀られ、ウイヌトゥン・クサティムイなどもある。古い時代に字の神を合祀した場所。
西御嶽 ヨリキヨシ 前慶良間村(拝島) 先祖の居住地。 島の北西にある山の窪地。 香炉が6つある。前島住民の最高聖地。通称中島と呼ばれている島だが、「渡嘉敷村史」では拝島と表記している。
ハン川御嶽 クセライ 前慶良間村(前島) 字発祥の地。  島の中央部、集落の北側にある平地。  種取り祭りのときに祝女が山籠もりをする場所。チャラナーカンジャナシーという神が出現する。
川上御嶽 ミチキヨシ 前慶良間村(前島) 祝女居住地。 島の中央部、集落に隣接するタカノチヂの裏側の川沿い。 かつてはウブガーとして利用されたが、現在は貯水池となっている。クシレーガナシ・ミチシガナシという神を祀る場所。 
コオリ御嶽 ヨリキヨシ 前慶良間村(前島) 作物の豊作を祈願する場所。 島の南東にある知花と呼ばれる場所にある大きな岩。 以前は香炉が7つあったが、今は1つだけ残っている。種取り祭りになると、タビノカンジャナシー・チャナラーカンジャナシーという神が現れた。
下ノ神  ヨリキヨシノトノ 前慶良間村(前島) 火の神を祀る場所。 学校跡の北にある山の麓。  殿があり、今は火の神の石と幾つかの香炉が残っている。ウマチーの広場。村の祈願もここで行った。この場所が「下ノ神」かは断言できないようだ。

琉球国由来記に記載のない御嶽

御嶽名  神名・トノ名 所在地 性格  場所&行き方  備考 
長崎御嶽 不明 字渡嘉敷 門中の拝所。 村役場の南東1kmにある標高150mのナガサチ山の頂。 屋号田の端(ターヌハタ)と呼ばれる松村家が嶽登りする御嶽。ここがミツ御嶽の可能性もある。
南ミツ御嶽 不明  字渡嘉敷  門中の拝所。 長崎御嶽へ行く途中にある。  石囲いと香炉が残っている。
アマンザの御嶽 不明  字渡嘉敷  火・泊・龍宮・男・女を守る神  役場の西60mにある山の尾根の先。  拝所が3つある。ミサキ御嶽と関連する。
カニマン御嶽 不明  字渡嘉敷  カニマン(鍛冶屋)神を祀る場所。 クミチヂ山南西の隅から西に200m、阿波連へ向かう道から北に2mの所。 鍛冶屋跡。 
前の御嶽 不明  字阿波連 港の守り神を祀る場所。 前岳頂上。集落南にある標高155mの山。旧前岳林道から。 種取り祭りのときに祝女が登った御嶽。
アカヒラ御嶽 不明  字阿波連  神を迎える場所。 上の殿御嶽とティラダキの中間。貯水タンクから少し離れた所。  種取り祭りの神であるヤフィンチャーを迎える場所。 
真川御嶽 不明  字阿波連  祝女の居住地。  集落と上の殿御嶽の間にある平地。 祝女を水の神として祀る場所。首里王の娘であった。 
中御嶽 不明  前島  航海安全を祈願する場所。 島中央の最も高い峰。  香炉が7つある。